スタッド部クラックの真相!

5150のフロイドのスタッド前には、ピックアップに向けてボディにクラックが入っている。


判りにくいかもしれないので、下図でクラック部に黄色いラインを入れてみた。


そもそもこれはコアなファンでなければ気が付かない小さな部分ではあるが、気が付いた方でも
長年の酷使によりスタッドが前傾し、それに押し出されてしまったのだろう
と思う方が殆どと思われる。実際、これを書く半年ほど前まで私もそう考えていた。
ここでは、このクラックが入った真相について解いていきたいと思う。


今までの考えはこうだ。

@ アームダウンによりスタッドに力がかかる
A スタッドがネック方向に傾く
B 耐えきれなくなったボディのA部が欠けて剥がれる

結果、A部のボディトップ側にクラックが入る。
ふと思い出したのが、以前修理したKramer JK1000のスタッド傾き。
フロイドユニットを踏んづけてしまったらしい。

この際、柔らかなバスウッドボディは収縮し、スタッドからの圧力を
凹んで受けてしまっていた

(この個体はもうすこし穴を広げ、堅いアッシュを埋めてその中に
スタッドを立て直した。)

つまり、上記のBが成立しないはずである。
今回、この様なテストピースを作成した。

5150と同じバスウッド、
本人と同じ板取りで、板目にしている。
ここでスタッドに(結構な)力を加えたところ、
ボディが凹み、スタッドの曲がりを受け止めてしまった。
その際、「ピキッ!」等の破断音もしなかった。

やはり、スタッドを曲げたところでボディを破断するほどの
硬度がバスウッドには無い。
そして、色々と考えた結果、スタッドには抜き方向の力がかかっていて、ボディを引き剥がしているのでは?という仮説を立てる。

@、アームアップをすると、Aの支点を中心にアームアップする。
通常のフロイドの支点は、フロイドのベースプレートとスタッドの交点Bである。が、エディの5150に関してはベースプレートがナイフエッジ加工を
せず、プレート自体がボディにベタ付けとなるため、Bを中心にスイングする事ができない。
そう、エディの個体ならではの仮説なのである。
スタッドを差し込んだまま、色々な方法で引き抜く。
が、一向にボディが割れない。

スタッドとボディがガッチリかみ合っていると、引き抜きに耐えると思い、
スタッドを前後左右に揺すり、スタッドが手で回せる程度に緩い関係にする。

なお、この時点で貴重な初期Φ6スタッドを何本か折ってしまった。

斜め方向に引き上げる為、色々な金具を組み合わせてトライする。

そして、
ボディにクラックが入り、上記仮定のA部剥離が実際に発生した。

クラック以外に凹みが見える。
これはエディが何百何千とアームダウンする力を再現する事ができず、
強い力で一気に再現させるために付いてしまった傷である。
そこそこの力でひたすら何千もやり続ければ起きない傷かもしれない。
正面から見るとこんな感じに割れている。
スタッドを引き抜くとこうなる。
やはりスタッド部が広がっている。
ピックアップキャビティ側に2mmほどA部破片がズレているので
その分穴は広がってしまう。
破片を引き抜くとこうなる。
この破片を元に戻すとこうなる。

エディ実機にかなり近い状態が再現できたと思う。
2021/5/9 更新

破片自体の再現はこれで良いと思う。
引き抜かれた説も良いと思う。


が、このAの部分が支点となり得るのか?
やはり柔らかいバスウッドにて、スタッドを引き抜く力に勝てず、Aの部分で
ボディが凹んでしまうと考えられる。
実際、上の写真では引き抜くためのガードとして当てがった金具部分が凹んでいる。
また、Aが凹んだ実機写真も見当たらない。

他に引き抜く力が加わった理由が無いか考えた
5150はご存知の通り、フロイドローズのプロトが取り付けられている。
やはり他のギターには無い、大きな特徴である。
ここにヒントが無いか考えてみた。

(左はプロトに使われている本物のアーム)
このアームをベースプレートに取り付けるとこの様になる。
もちろん、本物のプロトの写真。

このプロト、使ってみると判るのだが、
何が困るかって、アームが取り外せない。

下のナットを緩めれば良い?
いえいえ、このナットを回すには結構力が必要で、キャビティに入った場合
長いボックスレンチを電動で回さないと、とてもじゃないが日常取り外す
気にはなれない。

そう、

プロトに関してはアームが常時付けっ放しになってしまう。
それがケースにギターを収める時であってもだ!

これを元に、仮説をしてみた。
ギターに取りついた状態を絵にしてみた。
本当はアームは奥側だが、便宜上手前に書いている。
このアームがボディエンド側に向くとこうなる。
この状態で

(1)アーム先端に、荷物が落ちる、踏みつける、ギターを落としたり
  倒してしまう等で力がかかる
(2)ギターケースの蓋を思いっきり閉めてしまう
(3)この状態でケース等にうまく収まったとして、輸送中に振動がかかる

と仮定すると
@の力がかかり、
Aを支点とし、
Bの作用が働き
Cでスタッドの抜き方向の力がかかる。

これであればAの支点は緩やかなアールのついた部分でボディを
押すので、鋭角なエッジでボディを押すよりも凹みは少ないだろう。

(量産FRT5のベースプレートは鋳物なので、Aのカカトは鋭角だが
プロトは曲げ加工なのでAには自然アールが付いている)

以上を新しい仮説として追加したいと思う。


結論、エディ実機のボディクラックはスタッドに押されたのではなく
スタッドに引き抜かれた
が正しい状態と思われる!